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旭川地方裁判所 昭和43年(ワ)634号 判決

原告 岡清

右訴訟代理人弁護士 宮岸友吉

右訴訟複代理人弁護士 宇山定男

被告 深川木材工業株式会社

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、

(一)  被告会社の

1  昭和二七年四月一日の株主総会における岡田千代蔵、尾崎貫一、棚橋勇平、和田忠一、久保田信夫を取締役に、和田忠女、久保田四郎を監査役にそれぞれ選任する旨決議

2  同日の取締役会における岡田千代蔵尾崎貫一をそれぞれ代表取締役に選任する旨の決議

3  同年九月一日の取締役会における久保田信夫を代表取締役に選任する旨の決議はいずれも無効であることを確認する。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、その請求原因をつぎのとおり述べた。

(一)  被告会社は柾、家具類の製造、販売等を目的として昭和二二年一〇月三一日に設立されたものであり、原告は現に被告会社の株式一六六〇株を所有する株主兼取締役である。

(二)  被告会社設立当時の株主およびその持株数は別表第一記載のとおりであったところ、訴外尾崎貫一、岡田千代蔵、棚橋勇平らは共謀のうえ、株主名簿上右株主らの株式が別表第二記載のとおり譲渡されたように仮装して、株主名義の書替をしたうえ、右株式の仮装譲受人らは、真実の株主である原告、訴外渡辺辰雄らを除外して、昭和二七年四月一日被告会社の株主総会を開催し、訴外岡田千代蔵尾崎貫一、棚橋勇平、和田忠一、久保田信夫を取締役に訴外和田忠女、久保田四郎を監査役にそれぞれ選任する旨の決議を行ってその旨の登記をなし、右新取締役らは同日の取締役会において右岡田千代蔵、尾崎貫一を、同年九月一日の取締役会において右久保田信夫をそれぞれ代表取締役に選任する旨の決議を行なってその旨の登記をした。

(三)  しかしながら、前項の株主総会における取締役、監査役の選任決議は真実の株主でないものが株主を仮装して集合したうえ、決議したにすぎないから無効であり、従って、前項の取締役会における代表取締役の各選任決議も、無効な選任決議に基づく取締役らが行なったものであるから無効である。

(四)  原告が前記(二)項の各決議の無効の確認を求める法律上の利益は次のとおりである。

訴外久保田信夫は、無効な前記取締役会における選任決議に基づく被告会社代表取締役として、原告所有の別紙目録(一)記載の土地につき、昭和二七年九月九日売買名下に被告会社名義に所有権移転登記手続をなし、さらに、右土地と被告会社所有の別紙目録(二)記載の建物につき、同日、旭川地方法務局深川出張所受付第一五〇二号をもって、同日付の根抵当権者深川町農業協同組合、元本極度額三〇〇万円とする根抵当権設定契約を原因として根抵当権設定登記をなし、また訴外岡田千代蔵、棚橋勇平、久保田信夫らは無効な前記株主総会における選任決議に基づく被告会社取締役として、被告会社に対し当裁判所昭和二九年(ワ)第四四一号株主総会決議無効確認の訴を提起し、右事件が当裁判所昭和三〇年(ノ)第三三号民事調停事件に移行した後、昭和三一年三月二九日の調停期日において、利害関係人深川町農業協同組合に対し、被告会社が金五六万円の支払い義務のあることを承認し、その旨の調書が作成された。

従って、右各種法律行為の効力を争うために、その前提として前記(二)項の各決議の無効の確認を求める法律上の利益がある。

(五)  よって原告は被告会社に対し前記(二)項の各決議が無効であることの確認を求める。

理由

原告の本訴請求につき、決議の無効確認を求める法律上の利益が存するか否かについて考えてみるに、仮に原告の主張事実がすべて認められたとしても、原告が右無効確認を求める昭和二七年四月一日の被告会社株主総会における取締役および監査役の選任決議がなされて以来、すでに右決議により選任された各取締役および監査役の商法所定の任期(同法二五六条、二七三条、二八〇条参照)が満了していることは明らかであるから、右取締役および監査役に選任された者は、いずれも少なくとも任期満了により退任しているものと解され、また記録編綴の被告会社登記簿謄本によれば、被告会社は、昭和三一年四月一二日新たな取締役および監査役全員の選任手続をしていることが認められる。

したがって、昭和二七年四月一日の被告会社株主総会における取締役および監査役の選任決議により選任された取締役、監査役はいずれもその地位に就いていないから、その選任決議の無効確認を求める原告の請求部分は、過去の法律関係についての確認を求めるものであって、その法律上の利益を欠くものといわなければならない。

同様に、昭和二七年四月一日および同年九月一日の被告会社取締役会における各代表取締役選任決議により代表取締役に選任された者も少なくとも任期満了によってすでに右地位を喪失しているものと解されるから、右各代表取締役選任決議の無効確認を求める原告の請求部分についても、その法律上の利益を欠くものと解するのが相当である。

原告は、現在においても、前記各選任決議(ただし監査役の選任決議を除く。)により取締役、あるいは代表取締役に選任された者が、右選任の登記がなされていた間に被告会社の代表者としてなした各種法律行為の効力を争うために、その前提として右各選任決議の無効を確認する判決を得る必要があり、これが本訴における法律上の利益をなす旨主張するが、本件のように株主資格を有しない者がこれを装おって集合したうえ、決議をしたことを理由に、株主総会の決議の無効の確認を求める訴訟(決議不存在確認訴訟というべきである。)は、その勝訴の判決が確定することによってのみ決議の失効の効果が形成されるいわゆる形成訴訟とは解し難いから、その決議の無効なること、したがってこれを本件についていえば、前記株主総会における取締役および監査役の選任決議が無効であるということは、あえてその旨の確定判決をまつまでもなく、被告会社が直接第三者を相手方としてこれらの法律行為の無効を主張する他の訴訟における攻撃防禦の方法として主張しうると解せられ、また同様のことが取締役会決議無効確認の訴訟の場合にもいえるから、結局原告の右主張は採用し難い。〈以下省略〉。

(裁判長裁判官 志水義文 裁判官 楠本安雄 横山国輝)

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